愛知県の中でもたくさんの地域を管轄する「愛知県動物保護管理センター」。本所の他に3支所、尾張支所、知多支所、東三河支所を設け、動物の保護・管理・譲渡など様々な取り組みを行なっています。今回、LEONIMALは愛知県動物保護管理センターにお話を伺ってきました。様々な背景から捕獲・持ち込みされた動物たちと直に接し、動物と人とのあり方について常に現実と向き合っている、まさにいのちの現場です。全6回に渡り、センターに入ってくる動物たちの現実や、センターが不幸な境遇におかれる動物たちを減らすべく取り組んでいることをインタビュー形式でお届けしてまいります。第5回目は、動物たちを譲渡する前に行なっている譲渡前講習会について。新たに不幸になる動物を生まないための根源にスポットを当てた取り組み内容をお伺いしました。
LEONIMAL(以下:LE):センターでは、譲渡前講習会を経てから譲渡を行っている中で、野犬の子犬であったりすると、人なれをしていない分、おびえている場合もあるかと思うのですが、そういう子に対して注意すべき点、心得があれば教えて頂きたいです。
愛知県動物保護管理センター(以下:センター):そうですね。心得というとあれですけど、野犬の子は当然、人間のいない世界で生きてきて、急に人と接する訳ですよね。恐怖心がすごく強いですね。すぐに「慣れないから」とあきらめるのではなく、長い目で見て、徐々に社会化というか、人の世界に入って行けるように働きかけていくのが良策だと思います。静かにしといてあげるということも大事ですし、タイミングを見て、人と触れ合うとこんなにいい事があるよと覚えさせてあげることが大事かなあと思います。
LE:センターから保護された動物を家族に迎え入れるときに、やはり飼い主さんのライフスタイルがどんなものかというのは大切かと思います。飼い主さんに小さい子どもがいたり、老後を楽しもうという夫婦の方ですとか、色々なライフスタイルがあると思うのですけども、子犬や大型犬など種類によって向いているライフスタイルに違いはありますか。
センター:大型とか小型とかサイズだけで言えば、中型犬以上の大型犬であればどうしても運動というのが必要になってくるので、例えばお年寄りの方がそれだけのことができるかなというと、なかなか難しい部分もあります。一概には言えませんけれど、できれば成犬で、ある程度しつけができているようなわんちゃんの里親さんになっていただけるのが一番いいのかなという気はします。ライフスタイルでどうこうという話になりますと、多様ですのでなんとも言いづらい部分はあるんですけれど・・・
LE:子犬とか子猫を迎えるのであれば、ライフスタイル関係なく、しつけにきちんと取り組める体制かどうかというところですね。
センター:当然、飼い主さんの病気であったり、小さいお子さんがたくさんいたり、お子さんにアレルギーがある場合ですとか、様々な状況があると思います。自分が本当に犬が飼えるのか、猫が飼えるのかという観点から、まずは自分の現状を見て判断をして頂きたいです。
一番よくあるのが、子どもが犬が欲しいって言ったから買ってあげたが、しつけもできなくて困ったから引き取ってくれとセンターに連絡が入るケースです。でも本来は飼う前に、子どもが欲しいといったからとか、かわいいからというような欲求だけではなく、しつけも含めて飼い主としての責任を全うできるのかを判断した上で飼って頂きたいですね。
飼った後、しつけができなくて凶暴になっちゃってどうしようもないから、センターが引き取れと言われる方もいます。しかし、そもそも凶暴にしたのは飼い主さんの責任です。
それこそ、飼い方講習会に来ていただいて、まず自分が本当に犬や猫を飼うことができるということを判断してもらった上で、さらに犬の里親になってくれればありがたいです。他所で購入するなり、他所から貰うなりするにしても、そのあたりを踏まえて飼育してくれると非常にありがたい。
本当に犬を飼うと言った時には、先ほど言ったライフスタイルもそうですし、家族の状況もそうですし、自分たちがどこまでできるかというようなことも全て考えて見つめてもらってその上で判断をしていただきたい。犬を飼う、猫を飼うという話になったときは、10年先、20年先のことまで想定する必要があります。最期まで面倒をみてやれるのか、行く末を十分考えてもらえるとありがたいです。
LE:譲渡の条件に、室内飼いを推奨とのことですが、やはり外飼いはしない方が良いのでしょうか。
センター:譲渡する時に猫については、基本的には室内飼いをするという条件を設けています。
犬については外飼いというか繋留の義務があるので、それをいけないという事は言えないし、下手すりゃ20キロ30キロあるものをじゃあ家の中で絶対飼いなさいなんていう事はやはりなかなかね、そこまでは言えないです。例えば5キロ10キロの小型犬であれば家の中で飼ってくださいと言えますけどね。
事故や感染症などのリスクを考えたら、中の方が良いのではないかと思います。
LE:飼い方に関しても飼う前に指導があると、それだけでも不幸な動物を減らすことにつながりますよね。こちらでも開催されている「しつけ相談会」は、こちらから譲渡された犬の飼い主さんでなくても参加できるのですか。
センター:できますよ。うちから譲渡されたか否かは別に問いませんので、飼い方については相談に来ていただければ、できるかぎりのことはさせていただきます。
また現在は、市町村が主体的に動いて、出前しつけ教室を設けているところもあります。会場に出向いていって、その場に犬を連れてきてもらった方々に向けて、基本的なしつけを教える取り組みです。
個別であればここに来ていただいて、個別指導を行うこともできますのでね。
LE:実際に相談に来られる方で、どういった悩みが多いのでしょうか。解決例もありましたらお聞かせください。
センター:そうですね、うちとしては人間の生活に入った上で必要なしつけの仕方を教えています。簡単な「アイコンタクト」から始めています。
こちらから譲渡する場合は、数ヶ月経った時に「犬の状況教えて下さい」と連絡を里親さんにしているのですが、その際に「こんな事が出来る様になりました」とお返事を書いてくださる方もいて、とてもうれしいです。
LE:こちらで譲渡された方に、定期的にセンターから連絡をしてフォローをされているのですか?
センター:犬の場合ですと、絶対やってもらわなきゃいけないのが、登録と注射があります。やったら報告して下さいと譲渡時にお願いしてあります。その際に一緒に犬の状況もお知らせいただいています。あとは1年後を目処に調査をさせて頂いて、どんな状況なのかをヒアリングしています。
LE:実際の調査っていうのはどういう?
センター:お宅へ伺って、飼っている状況を見せてもらっています。
LE:それは職員の方が。
センター:そうです。行って見せてもらうとか、もしくはどうしても会えない場合は、電話などで、今の状況どうですか、とか何か悩み事ありますかとお伺いした上で、状況に合わせた指導をさせていただいてもいます。
LE:センターでは譲渡するだけではなく、そのあと飼い主さんへのフォローも行われているのですね。そういった細かい努力の積み重ねが犬・猫の殺処分数ゼロへ向けて、非常に大切なことだと感じました。
第一回「なぜ、たくさんの動物が保護・収容されるの?」
第二回「不幸ないのちを生まないために」
第三回「譲渡数を増やすよりも、苦境におかれる動物を減らすほうが大切。」
第四回「なんとか少しでも生かしてあげたい。愛護団体に支えられて。」
第五回「保護動物を家族に迎え入れるにあたって。」
第六回「災害時に大切なペットを守るために。」
写真:服部たかやす
PROFILE
1970年愛知県生まれ。写真家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。独学で写真を学び、雑誌専属カメラマンを経て、写真家として活動を開始。“人”を中心に、土地、文化、歴史、自然を重層的に捉えて撮影するスタイルで作品を製作。ドキュメンタリー的な視点を持ちつつ、フォトグラフィー、アート、デザインの間を往還する写真を撮り続けている。01年、動物愛護センターに集められ、譲渡を待つ子犬をテーマにした写真集『ただのいぬ。』(PIE BOOKS&角川文庫)を発表。05年、世田谷文化生活情報センター 生活工房で開催された写真展「ただのいぬ。展」は入場者5,000人を数え大きな反響を呼んだ。著書に『Do you have a home?』(ジュリアン)、共著に『写真以上、写真未満』(翔泳社)等。保護犬の存在を通じて犬と人との関係を考えるアートプロジェクト、「ただのいぬ。プロジェクト」の主宰。