愛知県岡崎市の東公園内にある「岡崎市動物総合センター・Animo(あにも)」。東公園内に動物園も隣接しており、広々として明るい雰囲気の施設です。動物園や公園があるため、自然と足を運んでしまうような施設になっているのが印象的です。こちらの施設では、東公園動物園の管理運営加え、動物の保護・治療また、管理・譲渡等様々な事業を行っています。今回LEONIMALは岡崎市動物総合センター・Animo(あにも)にお話を伺ってまいりました。全10回に渡り、センターで保護・収容される動物たちや、ペットと飼い主さんが抱えている問題、長期的な目線で捉えた子どもたちへの早期教育など幅広い取り組みに対してインタビュー形式でお届けしてまいります。第一回は譲渡制限55歳に込められた思いに関してお伝えしてまいります。
LE:こちらのセンターは公園の中にある珍しい施設ですよね。他の動物もたくさんいて無料の動物園がある公園と言う感じですよね。とてもびっくりしました。また、施設の1Fの入口付近にもこれまで譲渡した犬猫が写真と近況などが書かれたBOOKもあり、公園に遊びに来た親子など多くの人が保護された動物のことを知るきっかけにもなっていますよね。
所長:そうですね。公園の中にありますし、目の前は子どもが遊ぶ遊具がありますからね。ちいさい子どもや保護者が気軽に入ることができる施設ですね。ここは他の動物もいますし、公園ですので、犬猫を保護する施設はありますが、この施設には処分所は併設しませんでした。
LE:つまり、処分の対象になる犬や猫は市では保有せず、県の処分所へ委託されているとことでしょうか。
所長:そういうことになります。ただし、施設内での安楽死はあり、事故などで運ばれた動物がここで息を引き取るということもあります。そういった数も殺処分の数には含まれます。
LE:そうなのですね。入口付近に、保護・収容された犬猫の数がとてもわかりやすく提示されてありましたが、岡崎市で保護・収容された動物の数はどれくらいなのでしょうか。
所長:平成28年の統計ですが、犬の保護頭数は全部で107頭です。飼い主が飼えなくなったと直接の持ち込まれたのが6頭、公共の場所でケガをしていたのが1頭、迷子・野犬が100頭でした。また、猫の場合は376頭です。公共の場所でケガをしていたのが28頭、飼い主が飼えなくなったと直接持ち込まれたのが111頭、迷子・のら猫が繁殖した等の理由で持ち込まれたのが237頭です。
LE:犬も猫も飼い主が飼えなくなったという理由で持ち込まれるというのは悲しいことですよね。飼い主の方はどういった理由でペットを持ち込まれるのでしょうか。
所長:理由はいろいろあるのですが、自身が高齢になり病気になってしまったというのがだいたい30%です。あとは経済的理由が14%ですが、この経済的理由というのは過剰繁殖による持ち込みの36%とも非常に関係があります。大きく分けると、高齢・病気という理由と過剰繁殖ということがあげられます。
LE:そうなのですね。持ち込みの理由を項目に分けてパーセンテージをつけると対処の方法が見えてくるような気がします。こちらの施設では犬の場合は譲渡前講習会をされていますし、猫は1階のスペースでいつでも猫を見ることができますよね。譲渡の情報も得やすいですし、地域に開かれた印象で譲渡が比較的受け入れられている印象です。しかし、岡崎市の譲渡条件に55歳未満なのですよね。けっこう厳しいなぁという印象を受けたのですがどうなのしょう。
所長:そうですね。先ほど、飼い主がペットを持ち込む理由の部分で高齢や病気により飼えなくなる事例というのが30%と多くを占めています。ですので、この部分に関して改善をしようと思ったときに55歳の設定というのは譲れないと考えているのです。しかし、これに関してはいろいろ意見がありますね。
LE:動物との生活というのは高齢の方にも良い影響がある場合もありますよね。
所長:そうですね。55歳というのは、人間の平均寿命から、動物の寿命である猫20年、犬15年を引いてもまだ余裕がある年齢です。それに、「高齢者こそペットが必要なのでは?」「心に潤いを与えてくれるのに。」ですとか、「犬がいると散歩するから健康になるのでは?」とか、そういった意見をいただきます。しかし、もちろん、われわれもその意見に賛成です。ただし、念には念をということなのです。
LE:ということは、譲渡は可能ということでしょうか。
所長:はい。55歳以上というところだけが独り歩きしてしまいますが、55歳以上の方のみのご家庭又は一人暮らしの方は、20~55歳未満の代理人(万が一飼えなくなった場合に続けて飼える方)を必ず立てることという条件になっています。ですので、55歳未満は飼ってはいけないということでは決してないのですよ。
LE:よかった。安心です。
所長:高齢の方が飼えなくなったとなってしまい、センターに持ち込まれるケースを減らすにはどうしたらいいのか。そのひとつの工夫がこの条件なのです。譲渡するということ自体は難しいことではないと思うのです。どんどん譲渡すれば一時的には殺処分がゼロになるかもしれない。しかし、根本的な解決にはつながらない。一度飼い始めたペットを最後まで飼うという終生飼育が大事であると考えます。それを実現するにはどういったことが必要かを考える必要がある。一時的な解決の為、そのしわ寄せがセンターではないどこかに移動するだけということではいけないのではと考えています。その負担を市民の方や愛護団体の方やボランティアの方々におしつけてしまうことにもなりかねない。それが税金をいただいて行う市の仕事として、市民の皆さんにとって本当にいいことなのか?といつも自問自答するわけです。そういったことを考えながら自分たちはいつも何ができるのか。根本を改善することを目的にひとつひとつ考えながら日々取り組んでいます。
第一回「県内で最も厳しい譲渡制限、55歳未満に込めた思い。」
第二回「猫の飼育レベルの底上げ。」
第三回「飼い猫か、のら猫か、境界線があいまいな猫たち。」
第四回「飼い主がいない捨て猫のら猫への対処法は。」
第五回「高齢の方からの引取り」
第六回「大事なのは、どうしてここへ持ち込んだのかをきちんとヒアリングすること」
第七回「早急な“ゼロ”ではなく、本来の “ゼロ”を目指す」
第八回「アレルギーのある子もどう関わってもらえるのか。岡崎市内の年長児さんに来てもらうなかよし教室」
第九回「路上で死んでいる動物と殺処分される動物って同じ死かな、死に違いがあるかな、どっちがかわいそう?」
第十回「迷子の子だけではなく、事故に遭って亡くなってしまった子の飼い主も探す。返還率70%の裏側に職員の努力。」
写真:服部たかやす
PROFILE
1970年愛知県生まれ。写真家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。独学で写真を学び、雑誌専属カメラマンを経て、写真家として活動を開始。“人”を中心に、土地、文化、歴史、自然を重層的に捉えて撮影するスタイルで作品を製作。ドキュメンタリー的な視点を持ちつつ、フォトグラフィー、アート、デザインの間を往還する写真を撮り続けている。01年、動物愛護センターに集められ、譲渡を待つ子犬をテーマにした写真集『ただのいぬ。』(PIE BOOKS&角川文庫)を発表。05年、世田谷文化生活情報センター 生活工房で開催された写真展「ただのいぬ。展」は入場者5,000人を数え大きな反響を呼んだ。著書に『Do you have a home?』(ジュリアン)、共著に『写真以上、写真未満』(翔泳社)等。保護犬の存在を通じて犬と人との関係を考えるアートプロジェクト、「ただのいぬ。プロジェクト」の主宰。