予防獣医学、アニマルシェルター、獣医疫学を専門とし、動物治療の臨床現場からペット防災の啓蒙まで、多岐に渡りご活動されている帝京科学大学 生命環境学部 アニマルサイエンス学科 准教授 山本和弘先生。
足立区と協働で、飼育から防災までを網羅したペット手帳を企画編集し、人とペットの安全を守る取り組みを推進されています。
この度、LEONIMALはペットの防災を楽しく学ぶ「カードゲーム いっしょに逃げてもいいのかな?」のプレイ体験会を山本先生の授業で開催するとともに、先生のご活動についてインタビューさせていただきました。
命の現場に立つ山本先生の情熱と行動力の源泉に迫ります。
獣医師、大学での教育、またペット防災の啓蒙、と幅広く活動されている山本先生。
現在の活動にはどのような経緯で至ったのか。お話をお伺いしていくと「命と向き合う」という大きなテーマが根底にありました。
LEONIMAL(以下 LEO):
先生が今の専門領域を志すことになったきっかけは何ですか?
山本先生(以下 山本):
獣医師を志して勉強していた大学4年生の時に、アメリカ ミネソタ州の、ある獣医師に会いに行こうとしたのですが、その方が直前に倒れてしまったのです。ところが、その偶然からカルフォルニア大学デイビス校で人畜共通伝染病を専門とされていたドクター・シュワビーと出会いまして、彼の一言が人生を変えました。
「一緒に世界を生きよう。国境を越えた獣医師になろう」と。公衆衛生や感染症予防医学は、人も動物も広く守ることのできる分野です。まさに国境を越えて命を守るという使命に感動しました。
LEO:
病気にかかってから治す、ではなく予防を極めるということでしょうか。
山本:
そうですね。かのビル・ゲイツも「これからは予防医学が主流にならなくてはいけない」という主旨の発言をしていますが、大学卒業後、修士課程を学ぶために再度渡ったカルフォルニアで予防医学のすばらしさに触れ、重要性を実感しました。
予防医学に力を入れれば、結果として医療費にかかる国家予算も抑えられ、健康も維持できます。イギリスでもヒトのための予防医学が主軸になっています。
犬や猫にとっても病気をしてからの治療よりも体の負担が少なく、飼い主さんにも優しい仕組みだと思います。
LEO:
アメリカからの帰国後、国際NGOでご活動された経験もあるとか。何がきっかけだったのですか?
山本:
実はカリフォルニアで交通事故に遭って帰国を余儀なくされたんです。帰国後、数ヶ月間は治療に専念し、ほぼ癒されました。その時に「もう一度与えられた命だからしっかり役立てたい」との想いが強くなりました。
国際NGOで奉職したのは主に食料緊急支援や人道開発の分野ですね。アフリカに学校を建て、常時2,300人の子供たちの支援をしていました。北ウガンダの民族紛争で、カナダ人女性が設けた保護施設において、少女たちの保護活動の支援も行いました。そこでは、幼少期に拉致され、ちゃんとした名前も与えられていない少女たちに名前を付けることから始められていました。
LEO:
人の命の究極の最前線ですね・・・。
NGOの活動後、獣医師として勤務医として働かれたのですか。
山本:
地域医療に力を入れている動物病院で臨床獣医療に従事しました。病院での診察に加えて、原付で毎日何件も往診する日々が続きましたが、病院に来られない飼い主さんからはとても感謝されました。その病院は、病気が発症してからの対症療法ではなく、動物に対する負担が少ない獣医療の考えがしっかりしていましたね。
例えばステロイドを使えば症状が治まりますが内臓への負担も大きくなります。結果として命を縮めることになりかねません。漢方などの治療は効果が出るのに1か月ほどかかりますが、動物の一生という長期的な視点から見れば、動物に優しい治療法です。
LEO:
すぐに効果が欲しいという飼い主さんもいらっしゃったのでは。
山本:
そこは何度でも説明をして、理解をしていただく努力を重ねました。「目の前の一頭を救えなければ、他の動物も救えるはずがない」といつも思いながら治療に当たっていました。今ここにベストを尽くす。今日の一頭にベストを尽くす。これは防災においても、人の命の現場においても同じなのではと考えています。
LEO:
全てのご活動に、命と向き合う、という大きなテーマを感じます。
■山本先生インタビュー第1回はこちら
https://aisocial.jp/dr-yamamoto_01/
■山本先生インタビュー第3回はこちら
https://aisocial.jp/dr-yamamoto_03/
【Profile】
山本 和弘 やまもと・かずひろ 帝京科学大学 生命環境学部 アニマルサイエンス学科 准教授
1991年3月 日本獣医生命科学大学卒業。日本獣医生命科学大学 獣医学科 公衆衛生学教室 助手を経て、カリフォルニア大学デイビス校 卒後研究員。1996年6月 Master of Preventive Veterinary Medicine (獣医予防医学修士) School of Veterinary Medicine, University of California, Davis 卒業。2002年6月 Ph.D. 獣医博士課程 School of Veterinary Medicine, University of California, Davis 卒業。
国際NGO, Japan International Food for the Hungry 奉職、大阪府内の動物病院にて勤務医を経て現職。専門分野は予防獣医学、アニマルシェルターメディシン、獣医疫学、人畜共通感染症、公衆衛生。