リオニマルは「動物に誠実な飼い主になろう」をスローガンに商品開発や情報発信を行っています。
近年子どもの数よりも多くなっているペット。私たちの身近な存在です。しかし、4人に1人がペットを飼う一方で、年間16万頭という数の動物が殺処分されており、社会問題となっています。この問題の根本的な原因は何なのでしょうか。そもそも、人間が動物を飼うということはどういうことなのでしょうか。
リオニマルでは、野生動物や家畜動物、ペットを含めて動物と人との関わりを総括的に考えていきたいと思います。
どのように動物と向き合っていくべきなのか、「動物に誠実」に、とはどういうことなのか、様々な角度から見ると答えはひとつではなさそうです。そのヒントを探るため、動物をはじめとする様々ないきものに関わる方にインタビューを行っていきます。多角的な方向から動物やいきものとの向き合い方を一緒に考えてみませんか。
今回の取材の舞台となるのは東京都心から南へ約200kmに浮かぶ御蔵島。1990年代前半から始まった御蔵島の「ドルフィンスイム(スノーケリングやスキンダイビングでイルカと一緒に泳ぐこと)」は、多くの熱烈なファンやリピーターを生み出し、御蔵島は、小笠原と並ぶ「エコツーリズムの島」として、一躍脚光を浴びることになりました。長谷川潤さんもドルフィンスイムに魅せられた一人です。
この御蔵島で生態系の要になっていると言われるオオミズナギドリ。しかし、人間が持ち込んだ猫が野生化し、オオミズナギドリたちを脅かしています。1970年代には推定175~350万羽だったのが、2012年夏には77万羽にまで減り、環境省生物多様性センターが昨年に行った調査によると、繁殖数は推定11万7千羽まで落ち込んでいます。長年御蔵島のオオミズナギドリを研究している鳥類の研究者の方も、「このままでは20〜30年でオオミズナギドリは御蔵島から姿を消してしまうだろう」と警鐘を鳴らしているそうです。
長谷川さんは御蔵島のドルフィンスイムがきっかけで野生化した猫とオオミズナギドリの問題を知り、現在は御蔵島で捕獲した猫を、都内での里親探しへとつなげる活動をされています。長谷川さん自身も御蔵島の野猫だったポルカさんを家族に迎えられています。
「大人になった森ネコ(ここでは御蔵島の野猫のこと)も人になつくのですよ」と長谷川さん。長谷川さんが開設したFacebookでは、幸せそうに暮らす森ネコたちの日常を見ることができます。
しかし、課題もあります。実は、御蔵島の中でも人間が入れる場所は限られており、野猫の捕獲には限界があります。様々な困難のある中で今もなお失われていくオオミズナギドリと野生化した猫、ふたつの命と向き合う長谷川さん。猫をこよなく愛する一方で“鳥の命も考えて”と訴える長谷川さんの動物に対する人としての優しさと責任感を感じます。
御蔵島でオオミズナギドリを守るべく、活動を続ける長谷川潤さんにお話を聞きました。
ダイビングが好きで御蔵島が好き。こんな問題あったのかと気になって。
LE:御蔵島のオオミズナギドリを守る活動はどういったきっかけで始まったのでしょうか。
長谷川:ドルフィンスイムを20年程やっていて、御蔵島にもよく行っていました。でも2011年の東日本大震災があってからは、被災動物やペット防災に関わる活動を中心にしていたこともあって、あまり御蔵島に行けてなかったのです。久しぶりに御蔵島に行った時に、村の民宿とか掲示板に貼ってある野猫問題のポスターに気づきました。子どもたちが作った、野猫のことを知らせるポスターも貼ってありました。それを見たのがきっかけです。
LE:ポスターがきっかけだったのですね。
長谷川:はい。そこで実は野生化した猫がオオミズナギドリを襲って食べているということ、それが原因でオオミズナギドリが激減していることをはじめて知りました。同時に猫を捕まえて里親募集をしているということも知りました。
ポルカさんとの出会い
LE:長谷川さんの飼っている猫は御蔵島から保護した猫なのですか?
長谷川:元々、うちには「ミナモさん」という猫が1匹いるのですが、自分は留守も多くかわいそうだからもう一匹飼いたいなぁと思っていました。2016年の春のことです。その時に御蔵島の猫のことを思い出しました。ネットで調べたら、山階鳥類研究所の研究者の方が御蔵島の猫譲渡の窓口になっているとのことだったので、問い合わせてみました。そうしたらすぐに、新宿動物病院に猫がいるのでよかったら見に来ませんか?と返事あり、見に行きました。
LE:それが今は家族になっているポルカさんとの出会いだったのですね。
長谷川:そうですね。4歳半という高齢で捕獲されたので、同時期に入った若い猫がどんどん譲渡される中、ポルカさんだけ残っていたんです。全然人になついていなくって、一度トライアルに出たらしいのですがパニックを起こして戻ってきちゃったようです。また、真菌(しんきん)という皮膚の病気もあって、はじめて会った時はサマーカットされていました。
LE:運命の出会いだったんですね。
長谷川:そうです。ちょっと情けない姿になっていて。でも僕はこの子がすごく気になっていました。人に馴れてないけど、それでもいいかなぁと思って。動物病院の人が「もう少し考えてもいいですよ」と言ってくれたので、その時は連れては帰りませんでした。その後、病院から「とろろちゃん(ポルカさんが保護されている時の名前)すごく人馴れしてきましたよ?見に来ませんか?」と連絡をいただいて。再度会いに行って、その2週間後に我が家に迎え入れました。それから1ヶ月ほどで、我が家での暮らしにもほぼ完全に慣れてくれて、4年半も森で暮らしてきた猫でも人に馴れるのだということを実感しました。
LE:4年半も森で暮らしてきた猫がどうして人に馴れることができたのでしょうか。
長谷川:これはあくまでも推測なのですが、御蔵島の猫たちは、森の奥深くに暮らしていて、人間と交わることがほとんどありません。そのため、都会の野良猫と違って人間に怖い思いをさせられた経験もなく、最初は警戒していても、しばらく一緒に暮らすうちに「お、なんかコイツら、割といいやつなのかも。」と思ってくれるようになり、その後は急激に人に馴れていくのではないかと思っています。
ふしぎなご縁の連鎖
長谷川:御蔵島のオオミズナギドリと野生化した猫の問題に関して、観光に来ている人や、御蔵島が大好きで守りたいって思ってくれるような人に、もっと知ってもらいたいと思っていて。プールなどでスキンダイビングやシュノーケリング練習の指導もされている、ドルフィンスイムガイドの草地ゆきさんと相談して、「プール練習の参加費の一部と物販の売上金を寄付にあてるチャリティイベントを一緒にやりませんか?」という話をしました。それが発端となって、「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」を立ち上げ、一週間後くらいには、ホームページやfacebookページを立ち上げていました。
御蔵島のオオミズナギドリを守りたい
https://oomizunagidori.jimdo.com/
Facebookページ
https://www.facebook.com/pg/SaveTheOmizunagidori/
LE:とんとん拍子で進んだのですね。
長谷川:そうです。それから「早速だけど冬のあいだに御蔵島にいきませんか?」と山階鳥類研究所の研究者の方から連絡があり、行くことになったのです。御蔵島では、その方から、猫問題に関わる様々な人を紹介していただきました。またこの時の訪問がきっかけで、捕獲した猫を一時的に飼っておくスペースのためのケージを寄付で集めて、寄贈したりもしました。
LE:長谷川さんが現地に足を踏み入れたから、お気づきになったということですよね。やはり実際に見る、気づくということは大事ですね。
長谷川:そうですね。寄付を募りましたら、高円寺ニャンダラーズさんという猫の保護団体が、ケージの貸し出しをしてくれると申し出てくれたのです。10台貸してくれました。これがきっかけとなって、ニャンダラーズさんは御蔵島での活動そのものに、一緒に関わってくれることになりました。
高円寺ニャンダラーズ代表の佐藤さんは、2011年の東日本大震災がきっかけで動物に関する活動を始めたのですが、彼は高円寺にある老舗のライブハウスの店長なのです。お店にあつまる常連さんらと一緒に、被災動物のレスキューをはじめたのがきっかけです。猫の適正飼養について知識がある人が仲間に加わってくれたので、御蔵島での猫一時預かりの環境も改善することができました。
LE:同じ思いを持つ方々が、ご縁でつながってチームができたのですね。
10年間続けた御蔵島でのTNR。TNR+持ち出しへ路線変更。
※TNRとは、「飼い主のいない猫」に対し「TNR(Trap/捕獲し,Neuter/不妊去勢手術を行い,Return/元の場所に戻す,その印として耳先をカットする)」を実施することです。
LE:野生化した猫の捕獲に関して、どういった課題があるのでしょうか。
長谷川:御蔵島のオオミズナギドリの保護のため、野生化した猫のTNRを始めたのは2005年です。約10年TRNの活動を行っていましたが、それでもオオミズナギドリの減少は防げませんでした。そこで、2015年からは、捕獲した猫を、里親探しのために内地に持ち出す活動が始まります。そして、2016年からは東京獣医師会のご協力を得て、捕獲した猫の人馴れ訓練と里親探しを、獣医師会に所属するのための島外への持ち出しを実施しています。
TNRはその地域の猫の7~8割に実施しないと効果がないと言われています。特に御蔵島は山が険しく、人間の立ち入りが禁止されている場所も多くて、すべてのネコを捕獲するのはとても難しいのです。今のところ捕獲器を仕掛けられているのは、車道沿いと山中の遊歩道沿いだけです。
LE:実際、御蔵島の野生化した猫のうち不妊去勢した猫は何割ぐらいになるのでしょうか。
長谷川:無人カメラによる個体識別データから推測すると、不妊去勢された御蔵島の猫は3割程度と考えらえています。TNRで猫の数が減少に転じると言われている「7~8割」にまでは満たないのです。現在では、過去に不妊去勢をした猫が捕獲された場合も、なるべく持ち出すようにしています。可能であれば、御蔵島の全域に監視カメラをつけて猫たちがどこにいるのかを把握して、生息分布図をはっきりさせた上で、計画的に捕獲をする必要があると思うのですが、僕らだけの力ではできず、研究者や行政の力も必要です。
また、鳥を増やすところまで持っていくには現在の規模で捕獲をしているだけでは無理だと思っています。お金も人もかけて、猫たちを一気に捕獲する必要があります。しかし、そうすると捕まえた多数の猫の譲渡をどうするのかという問題もでてきます。そこで、Facebookに「森ネコひろば」という公開グループを作ったり、「御蔵島の森ネコ写真展」を開催したりすることにより、多くのみなさんに御蔵島の野生化猫の存在をしってもらい、また親しんでもらえるような場を提供しています。
みなさんは森ネコって言葉を知っていますか?
LE:「森ネコ」ってことばがとてもかわいいです。
長谷川:「森ネコ」というのはぼくらが作った造語なのですが、御蔵島に限らず、野生動物を食べて人間と交わらずに暮らしていた猫のことをそう呼ぶことにしました。
LE:御蔵島の野性化猫のことだけじゃないのですね。
長谷川:はい。小笠原諸島、奄美大島、北海道の天売島とか、実は他にも同じような野性化猫の問題があるのです。地域によっては、捕獲した猫の引き取り手がなければ殺処分になってしまう場合もあります。このような猫たちの命を繋ぐためにも、野生化猫のイメージアップは大切です。しかし野生化猫をあらわす法律用語の「ノネコ」は、猫の殺処分や駆除を容認するために作られた言葉でもあり、私たちはこの言葉を使うことに抵抗感を持っています。そこで、この「ノネコ」に代わる言葉として「森ネコ」を考案し、広めていきたいと考えました。
世界的な流れとしては、「侵略的外来種」である野生化猫は、駆除や殺処分が容認される場合が多いです。しかしこの猫たちは、元はと言えば人間が野に放ってしまったもので、責任は人間にあります。人間はその責任を皆で分担しあって、猫たちの命を守るべきだと思っています。
LE:人間はもっと自分たちの行動に責任を持つ必要があると感じますね。安易な気持ちでやってしまい、後々悲しいことにつながるのを減らさないといけない気がします。
長谷川:そうですね。基本的に、生態系を破壊する侵略的外来種は駆除の対象になるのが普通で、そんな中「なんで猫だけが特別扱いを受けるの?」という意見もあります。でも、マングースやアライグマは家で飼うのは難しいかもしれないけど、猫は人間の家庭の中で飼える動物なのです。飼えるのであれば、飼える命は救えばいいじゃないかと思うのです。だったら、わざわざ殺す必要はないのではないか、と。
長年森で暮らしていても、猫は人間になつきます。我が家の森ネコ「ポルカ」もそうでした。人間と森ネコとの幸せな暮らしぶりを飼い主さんが自由に投稿できるのが、Facebook
グループ「森ネコひろば」です。ぜひ多くの方に見ていただきたいです。
URL:https://www.facebook.com/groups/555057494850209/
(後半へつづく)
⇒「森ネコって知ってる?野生動物を食べて人間と交わらずに暮らしていた猫のこと。(後半)」