愛知県名古屋市の平和公園に隣接する「名古屋市動物愛護センター」。目の前には十分な広さのドッグランがあり、お散歩の時間には、職員さんに見守られながら楽しそうに走る犬たちの姿が印象的です。名古屋市は2016年度に犬の殺処分ゼロを達成し、大きな反響を呼びました。私たちが取材に訪れた際は丁度、中学生が動物愛護教室のため施設を訪れていました。平日ですが人の出入りが多く、明るい雰囲気の施設です。今回LEONIMALは、名古屋市動物愛護センターにお話を伺ってまいりました。犬の殺処分ゼロに至るまでの経緯や幅広い取り組みに対して全7回に渡り、インタビュー形式でお届けしてまいります。第一回は名古屋市が殺処分ゼロを達成した背景に関してお伝えします。
LEONIMAL(以下:LE):2016年度には名古屋市動物愛護センター開設の1985年以降初めて、犬の殺処分ゼロを達成されたということですが、成功の要因は何かあるのでしょうか。
島崎さん:名古屋市の場合は、犬の殺処分がゼロになるまでに、ある程度飼い主への啓発というのが周知されてきており、引取り数が減少していたのが大きいです。「殺処分ゼロにできる」状況が見えてきてからのスタートでした。
LE:最近ニュースでも、「殺処分ゼロ」を目指す雰囲気は高まってきていますが、急速なゼロや無理のあるゼロで、誰かに負担がかかってしまうケースも問題になっていますよね。
島崎さん:そうですね。名古屋市の場合は、この施設が始まった時からの取り組みの積み重ねで、できると見通しが立って、実際にゼロにできたのだと思っています。どこか一つの民間団体さんに負担をかけるというのではなく、みんなができることを少しずつ積み重ねて達成できたというのが、名古屋市の犬の殺処分ゼロの大きな意義だったのではないかと考えています。
LE:殺処分をしなくてもよくなった理由というのはあるのでしょうか。
島崎さん:処分しなくても飼えるようになった点だと思います。ここに入ってくる頭数から出ていく頭数を差し引いて、残る犬の数が施設のキャパ内だからです。
万が一、増えてしまう可能性はあります。ここから先、高齢犬や噛む犬が譲渡できずにたまってきてしまったとしても、半永久的にこの状況が継続できるかというと分からないですが、何ヵ月間かだったらいっぱいになるまでおいてあげようよと言えるのです。それぐらいしか犬は来ないのです。
LE:何か施設としての方針ができからというのではなく、職員の方の生かしていこうという思いと、収容数とのバランスが相俟って、実現したということなのでしょうか。
島崎さん:そうですね。そろそろゼロにできるのではないかっていう雰囲気はありました。とはいえ、やっぱりゼロにすると決めた最初の年は、オーバーフローするのではという心配もありました。実際、オーバーフローしかけた時もありました。今でも不安はあります。でも現状、やれるからやっていこうという感じでやってきています。
LE:ここにくるまでには地道な努力の積み重ねだったということですよね。
島崎さん:そうですね。現場としては、殺処分なんかしたくないのです。ただ、「殺処分ゼロ」という目標は、「殺処分が少ない」とは違って、ハードルが高いものです。ですから、急に殺処分ゼロになったわけではないのです。この施設が始まったころ、平成元年の犬殺処分数というのは恐ろしいことに、約5000頭なのですね。猫は平成19年には約5000頭になってきているような状況です。当時はまだ実験動物になってしまう子もいて、こんなことではいけない、終生飼ってくださいという啓発をずっとしてきたわけです。そういった取り組みで、犬の飼い主さんの意識も変わってきて、ようやく達成できたのです。
LE:少しずつ引取り数が減っていったということですね。
島崎さん:ここ数年で犬の引取り数はだんだん減ってきています。長い時間をかけて、飼い主さんの意識をちょっとずつ変えてきて今があるのかなと感じています。どなたか志の高い一人が頑張って達成したのではなく、町ぐるみで達成できたのだと思います。
LE:飼い主さんの意識を少しずつ変え、町ぐるみで達成する流れは、殺処分を減らす重要なプロセスですね。
島崎さん:本当に地道にコツコツとやってきたという感じです。名古屋市の動物愛護センターでは、動物に関する教室数がとても多いです。「犬猫を飼う前教室」、「犬のしつけ方教室」「パピー(子犬)教室「高齢犬猫のケア」など、一般の方も来やすいように土日にも開催しています。また夏休みには、子ども向けに週に二回ほどのペースで頻繁に行っています。また、小学校のトワイライトスクールは年間16回、命の教室も年間6~7回行っています。
LE: 地道な努力と、子どもへの初期教育は本当に大切ですね。
第一回「小さな努力の積み重ね。名古屋市が犬の殺処分ゼロを達成した理由。」
第二回「一人の志高い人だけが頑張るのではなく、地域全体が少しずつ変わることが大事。」
第三回「名古屋市の野犬は数年前に払底。捕獲犬の返還率67%でもあとの33%はどこからきたの?」
第四回「引取り原因の1位が病気・入院・死去。高齢化社会の影響がペットにも。」
第五回「譲渡されにくい子ではなく、譲渡されやすい子をボランティア団体さんへ。 」
第六回「顔を見ちゃったからと言って選ばなくていい。あなたがもらっていかなくても処分しないから大丈夫。」
第七回「猫の交通事故死、殺処分数の約20倍。対策は室内飼いと避妊去勢。」
写真:服部たかやす
PROFILE
1970年愛知県生まれ。写真家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。独学で写真を学び、雑誌専属カメラマンを経て、写真家として活動を開始。“人”を中心に、土地、文化、歴史、自然を重層的に捉えて撮影するスタイルで作品を製作。ドキュメンタリー的な視点を持ちつつ、フォトグラフィー、アート、デザインの間を往還する写真を撮り続けている。01年、動物愛護センターに集められ、譲渡を待つ子犬をテーマにした写真集『ただのいぬ。』(PIE BOOKS&角川文庫)を発表。05年、世田谷文化生活情報センター 生活工房で開催された写真展「ただのいぬ。展」は入場者5,000人を数え大きな反響を呼んだ。著書に『Do you have a home?』(ジュリアン)、共著に『写真以上、写真未満』(翔泳社)等。保護犬の存在を通じて犬と人との関係を考えるアートプロジェクト、「ただのいぬ。プロジェクト」の主宰。